Turina, Joaquin : 3 Danzas andaluzas Op.8
Work Overview
Publication Year:1913
First Publisher:Rouart-Lerolle
Instrumentation:Piano Solo
Genre:pieces
Total Playing Time:11 min 30 sec
Copyright:Public Domain
Commentary (1)
Author : Kobayashi, Yukie
Last Updated: July 19, 2018
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Author : Kobayashi, Yukie
Composed by Joaquín Turina, a leading composer of Spanish music in the first half of the 20th century alongside Albéniz, Granados, and Falla, this piano work was written when he was 30 years old, making it one of his early compositions.
Born in 1882 into a wealthy painter's family in Seville, Turina displayed musical talent from an early age, making his debut as a professional pianist at just 15. After studying piano and composition in Seville and Madrid, he moved to Paris at 23 to study at the Schola Cantorum. At the Schola Cantorum, Turina studied piano with Moritz Moszkowski and composition with Vincent d'Indy. He also actively interacted with prominent composers active in Paris, such as Ravel and Paul Dukas. He was particularly influenced by French Impressionism through his deep personal and professional friendship with Debussy. Furthermore, as evidenced by his early debut as a pianist, Turina was an excellent performer, and among his more than 100 musical works, his piano compositions stand out for their high level of perfection. Turina's music, while strongly influenced by French Impressionism, draws inspiration from Spanish folk music, particularly from Andalusia, but also from the Basque Country and Catalonia. Its grace and nostalgia are its greatest charm.
Tres danzas andaluzas, Op. 8, was composed in 1912 while Turina was still a student at the Schola Cantorum. It premiered on October 13 of the same year with Turina himself performing at the Royal Santa Cecilia Academy in Cadiz, Spain. This was followed by self-performances in Seville on October 29, Madrid on November 22, and at the Salle Pleyel in Paris on February 1 of the following year. The Paris concert, in particular, was organized by the Société Nationale de Musique, founded by Saint-Saëns and others with the aim of providing young French composers with opportunities to perform their own works, and the performance there garnered significant attention. Within a short period of less than six months, Turina performed his own work four times. Perhaps as a result, Tres danzas andaluzas caught the eye of the Parisian music publisher Salabert. Turina signed a contract with Salabert for the publication rights for 300 francs, and the score was officially published by the company on May 11, 1913.
曲のタイトルにある「アンダルシア」とは、スペイン南部の地方のこと。「スペイン」と聞いてよくイメージする闘牛やフラメンコなどはこの地方の文化であり、燦々と輝く太陽と、褐色の大地の広がるスペインらしい地域である。
特にアンダルシアを代表する文化であるフラメンコは、15世紀にインド北部からヨーロッパへと移動してきたロマ(ジプシー)と呼ばれる民族が発展させてきた音楽であり、この地方には多くのロマ(ジプシー)が住んでいる。また、アンダルシア地方は、8世紀から15世紀までの約700年の間に渡ってイベリア半島南部を支配したイスラム教国の影響が色濃く残っており、様々な民族の文化が混ざりあって、他のスペインの地域にはない独特な文化が息づいている。
トゥリーナが生まれ育ったセビーリャは、グラナダやコルドバなどと並び、アンダルシア地方を代表する大都市のひとつであり、トゥリーナは自分自身の故郷の音楽を作品の題材にしたと言える。
このような作品を作るきっかけとなったのには、同郷のスペインの大作曲家イサーク・アルベニスの「セビーリャ人として、アンダルシアを題材とした芸術作品を確立すべきだ」とのアドバイスが大きい。
トゥリーナが音楽家を志すようになった頃には、アルベニスは既に活動の拠点をパリとロンドンに移しており、トゥリーナがアルベニスに出逢ったのは留学先のパリであった。アルベニスとドビュッシーは、互いに音楽的にアドバイスし合うなど大変に親交があり、フランス人のドビビュッシーがパリの地で、スペイン人のアルベニスとトゥリーナが出逢う橋渡し的存在となったとも言える。
〈3つのアンダルシア舞曲〉は、「ペテネーラ」、「タンゴ」、「サパテアード」の全3曲から成り、いずれもフラメンコの形式や技巧の名前が曲のタイトルとなっている。
それぞれ献呈者は一曲ずつ異なる。
それでは、各曲について詳しくみていこう。
- 1. 「ペテネーラ」…Tres vif、8分の3拍子。Manuel Herreraに献呈。
曲のタイトルになっている「ペテネーラ」とは、フラメンコの曲種(パロ)のひとつ。
フラメンコは、約60種類にもおよぶ形式が存在し、大きく2つの要素からジャンル分けされている。
その要素のひとつが「パロ」と呼ばれる「メロディ」によるジャンル分けである。
「ペテネーラ」は、他のフラメンコに比べ、少し独特なパロであり、音楽のルーツは、元々のジプシー(ロマ)の音楽ではなく、15世紀前後にスペインやイタリア、トルコなど、南ヨーロッパを含む地中海沿岸に定住していた「セファルディム」と呼ばれるユダヤ人の音楽にあると言われている。
かつてはファンダンゴ系の軽快な3拍子のリズムで歌われてきたが、フラメンコの歌い手が歌うようになってからは、フラメンコのリズムの形式の制約なく自由に歌う「リブレ」で歌われるようになった。
この曲では、冒頭の部分はリズムの制約の無い「リブレ」の形式で自由にメロディが歌われている。クロマティック(半音階的)なフレーズが左手から右手へと橋渡しされ、音楽の響きは印象派そのものである。
11小節になると突如1小節間のゲネラルパウゼとなるが、この一瞬の静寂が、次のスフォルツァンドで現れるCisの音をより効果的なものにしている。14小節目から8分の3拍子となり、本来のペテネーラの姿であるファンダンゴ系のモチーフへと変わってゆく。冒頭の印象派らしい曲想とはガラリと雰囲気が変わり、太陽が燦々と輝くスペインのアンダルシア地方らしい曲想となっていゆく。冒頭に登場したクロマティックのフレーズが時折顔を見せながら音楽が盛り上がってゆくと、36小節目からは、#6つから#4つの調へと転調してゆく。いくつもの美しいモチーフが入れ替わり現れ、その後も三回に渡って転調が繰り返されてゆく。
途中、Toujours vifに入ると、8分の5(2+3)拍子となり、アンダルシアらしいフラメンコ的なリズムとなる。
Tempo Iで8分の3拍子へ戻ると、テーマが徐々に呼び起こされてゆく。この主題が華麗に再現されながら頂点へと音楽は登り詰め、堂々と終わる。 - 2. 「タンゴ」…Andante ritmico、4分の2拍子。Eduardo Torresに献呈。
「タンゴ」というと、アルゼンチン発祥のダンス音楽の印象が強いが、フラメンコにおけるタンゴは、それとは全く別のものである。
フラメンコのタンゴのはっきりとした起源はわからないが、14世紀末にキューバのハバナからスペインのカディスに伝わったといわれ、時代を重ねるにつれて、ロマ(ジプシー)たちの手によってフラメンコらしい音楽へと姿を変えていったと言われる。
先ほどの「ペテネーラ」でも触れた通り、フラメンコをジャンル分けする上で重要な要素の一つは「メロディ」であるが、もう一つの要素は「リズム」である。フラメンコにおけるタンゴのリズムは、2拍子系、もしくは、4拍子系のリズムをさし、力強いアクセントが、聴く者の心を情熱的にかき立てる曲想が特徴である。
曲の冒頭は、右手ではなく、左手によってメロディが奏でられ始める。符点のリズムを伴ったメロディは、美しくも憂いを秘めており、第1曲「ペテネーラ」の印象派的な曲想とは異なるものの、トゥリーナが作り出すスペイン音楽らしい側面がうかがえる。
12小節目のbien chante et tres express.からは、メロディが左手から右手へと移り変わり、左手にはシンコペーションのリズムが特徴的な伴奏が書かれている。その後も、メロディが左手から右手へと橋渡しされながら、徐々に音域を広げ、音楽が盛り上がってゆく。
途中、plus viteを経て、Allegrettoに入ると、♭1つの調から、#2つの調へと転調する。この曲は、調号を用いいて書かれているもの、長調や短調などのクラシック音楽の調性ではなく、フラメンコ音楽でよく使われる「ミの旋法」(フリギア旋法によく似ており、第1〜2音と第5〜6音が半音となる旋法)が使われている。
2度目のplus viteを挟んで、Tempo Iに戻ると、冒頭と同じようにメロディが左手から登場して、右手へと橋渡しされてゆくが、オクターブでメロディを奏でることによって、音楽に厚みを持たせている。
ラスト8小節目からは、この曲を象徴するような符点のついたメロディが重音で登場し、エキゾチックな薫りを漂わせながら、ひっそりと幕を閉じる。 - 3. 「サパテアード」…Tres vif、8分の6拍子。Laura Albenizに献呈。
この曲が献呈されたラウラ・アルベニスとは、トゥリーナが多大なる影響を受けた同じスペイン出身の作曲家イサーク・アルベニスの娘である。ラウラは、この曲の他にも、フランス近代を代表する巨匠ガブリエル・フォーレのピアノ作品〈舟歌〉の第11番も彼女に献呈されている。
曲のタイトルの「サパテアード」とは、アンダルシア地方で発展した8分の6拍子のフラメンコのひとつで、つま先や踵を踏み鳴らしてリズムを刻むのが特徴的である。これが転じて、フラメンコダンサーが靴をかき鳴らして刻むリズムのことを「サパテアード」というようになった。
冒頭は、高音部でリズムが刻まれ、ロマ(ジプシー)たちが靴をかき鳴らしてサパテアードのダンスを踊る姿が生き生きと表現されている。続く12小節目のbien chanteからは、印象派らしいハーモニーでメロディが歌われ始める。
展開部では、ヘミオラのリズムが登場し、エレガントな雰囲気を醸し出しはじめる。
Allegrettoに移ると、♭5つから#4つの調へと転調し、拍子も8分の3拍子に変わるなど音楽が一変する。これは、フラメンコの形式のひとつである「ティエントス」を表現したものといえる。
「ティエントス」とは、2拍子系のゆっくりとしたタンゴの一種で、「注意しながら、ゆっくりと手探りしながら」という意味の古いスペイン語の言葉がルーツとなっている。感情に訴える力が強く、独特な影を落としている。
再びの転調を経て、Tempo Iに戻ると、鮮やかに冒頭の音楽が再現されてゆき、フォルテッシッシモで高らかに曲の幕を閉じる。
第3曲は、軽快な8分の6拍子のサパテアードのリズムの中に、フランス印象派を思わせるような優雅で洒落たハーモニーが融け込み合い、印象派の音楽技法でスペイン伝統音楽を描き出したトゥリーナの持ち味がいかんなく発揮されていると言えよう。組曲の最後を飾るのに相応しい曲である。
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