作品概要
作曲年:1828年
出版年:1888年
楽器編成:ピアノ合奏曲
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:7分30秒
著作権:パブリック・ドメイン
解説 (4)
総説 : 堀 朋平
(907 文字)
更新日:2018年3月12日
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総説 : 堀 朋平 (907 文字)
シューベルトのピアノ舞曲
19世紀初頭は、18世紀に流行した貴族的なメヌエットが、より民衆的でダイナミックなドイツ舞曲やレントラーに座をゆずった後、やがて華やかなワルツに移行しようとしていた時代である。2手用と4手用あわせて約650曲に上るシューベルトのピアノ舞曲も、これら3拍子系の曲種を中心に伝承されている。ヴィーン会議(1814~15年)後に隆盛を見たワルツのリズムをシューベルトも愛したが、残された楽譜を見るかぎり、作曲家が「ワルツ」の名称を使ったのは1回だけであった。この事実からも、各舞曲の性格はそれほどはっきり区別されていなかったと考えてよい。
シューベルトにとってのピアノ舞曲は、まずは内輪の友人たちの集いにBGMを提供し、なごやかな社交の雰囲気を作り出す曲種だった。やがて腕前が世間に知られていくにつれ、公の大きなダンスホールに招かれてピアノを弾く機会も増えていった。その場の雰囲気にあわせて即興で弾いた曲のなかから、特に気に入ったものを後で楽譜に清書していたらしい。そうして書きためられていった舞曲は、歌曲と並んで初期の出版活動の中心をなした。
シューベルトがピアノ舞曲を弾く様子は、友人たちの数ある証言のなかでも最もしばしば、そして生き生きと回想される場面の一つだった。それらの証言が12月~2月に集中しているのは面白い事実である。南方とはいえヴィーンの冬は厳しい。彼らは寒い夕べに皆で集い、心身の暖を取っていたのである。そんなある夜、人生に疲れた親友をシューベルトの即興演奏が癒す様子を描いた詩すら残されている。こうした場面はシューベルトの音楽の原風景をなすものであり、そこで生まれた舞曲は、時に精神のドラマをはらむ緊密なチクルス(まとまった曲集)にまで発展することがあった。この性質をよく認識していたのがロベルト・シューマンである。シューベルトの舞曲チクルスのいくつかは、やがて《ダーヴィド同盟舞曲集》(1837年)につながるほどの緊密な作品集になっているのである。
友情、社交、そして精神の旅路――この3つの領域をゆるやかに横断しつつ、シューベルトのピアノ舞曲は人の心と身体を暖めてくれる。
成立背景 : 堀 朋平
(122 文字)
更新日:2018年3月12日
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成立背景 : 堀 朋平 (122 文字)
晩年に相当するD番号が付されているものの、自筆譜の成立はおそらく1815~19年と推定される。シューベルトの筆跡で指使いが書き込まれていることから、おそらく18歳ころの作曲家が学習用あるいは教育用に書いたのであろう。速度表記は作曲者自身による。
楽曲分析 : 堀 朋平
(275 文字)
更新日:2018年3月12日
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楽曲分析 : 堀 朋平 (275 文字)
アレグロ・モデラート」は、きわめて簡潔なソナタ第1楽章に相当する。属調に転調した後で明快な第2主題を聴かせる提示部、遠隔調をめぐりながら対位法的な声部の絡み合いで盛り上がる展開部、そして終わり近くに下属調の響きに触れる再現部は、いずれもソナタ形式の慣例に沿って全体を作ろうとする初期シューベルトの習作的な側面を示している。緩徐楽章に相当する「アンダンテ」で自筆譜は終わっている。この作曲家にあって、器楽を「急─緩」の2楽章で完結させる傾向はむしろ一般的だが、イ長調和音の静かな連打による終わり方から察するに、さらに急楽章が続いた可能性も否定できない。
演奏のヒント : 堀 朋平
(405 文字)
更新日:2018年3月12日
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演奏のヒント : 堀 朋平 (405 文字)
この作品には、解釈のヒントとなる興味深い歴史がある。作曲家の死後1833年に、兄フェルディナント・シューベルトが自作《パストラル・ミサ》のために、本作を編曲しているのである。少年合唱を率いる教師で作曲家でもあったこの3歳上の兄は、弟の作品を生前にも自作として演奏したことが他にも何度かあった(そうした行いにシューベルト本人は概して寛大だった)。
そのフェルディナントが本作に与えたのは「クレド」の歌詞である(自筆譜のプリモ・パートにはフェルディナントによってラテン語で丹念に歌詞が書き込まれている)。このハ長調の純朴な音楽には、神への信仰を告白する「我は信ず(クレド・イン・ウヌム)......」の歌詞がふさわしい――作曲者と親しかった兄がそう考えた事実は解釈の上で参考になろう。アンダンテ楽章には、同じくクレド楽章から、マリアがイエスを身ごもる神秘的な場面「エト・インカルナートゥス・エスト」が充てられている。
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