72小節からなる三部形式(ABA’-Coda)の作品。各セクションはAが第1- 18小節、Bは「カンタンド cantando」の楽想記号で始まる第19-38小節、A’は第39-58小節、Codaは第59-72小節からなる。ただし、楽曲全体を通して特定の旋律やシンコペーションのリズム・モチーフが使われているために、《ノクターン》第7番までに見られるほどには主題の対比が明確ではない。フォーレの次男フィリップは父親の《ノクターン》の趣を評する中で、この作品を「純粋なエレジー」(※1)と見なしており、短調の響きと抑揚の少ない構成をうまく言い得ている。
しかし、フォーレはその作曲過程で楽曲にクライマックスを取り入れる試みをしていた。1つ目は、第16小節に現れる3連符リズムである。自筆譜では前小節(第15小節)の8分音符+16分音符のモチーフがそのまま引き継がれて書かれている。これは網掛けによって消されているが、完成稿の第16—17小節の二点嬰へ音から一点嬰へ音への下降する2小節のフレーズが当初は1小節分に収められていたことが分かる。完成稿の第16小節に3連符を取り入れることで、第19小節から始まる「カンタンド」のセクションへ至る小節数が拡大され、よりはっきりとしたフレーズの区切りが作られている。2つ目は第31小節である。当初は第30小節から32小節(二点嬰ハ音で開始)へそのまま進行していたが、ここも書き直しによって31小節(二点ホ音で開始)の部分が加えられた。つまり、フレーズの始まりが一層高い音域へ上げられており、それによって楽曲の緊張感も高められているのである。このようなクライマックスを経て、最後のコーダではモチーフが細分化されてさざ波のように静かに終わる。なおここでのテクスチュアの変化に関しては、イギリスの研究者R.テイト、そしてネクトゥーが注目しており、穏やかに揺れ動く和声が晩年の歌曲を予期させると指摘している(※2)。
※1 Philippe Fauré-Fremiet, Gabriel Fauré, 2e éd., Paris, Albin Michel, 1957, p. 138-139.
※2 Robin Tait, The Musical Language of Gabriel Fauré, Ph. D. Thesis, University of St-Andrews, 1984 : New York, Garland, 1989, p. 285. および、ジャン=ミシェル・ネクトゥー『評伝フォーレ 明暗の響き』大谷千正監訳、日高桂子、宮川文子訳、東京:新評論、2000年、p. 652-653。