桐朋学園で学んだ後、ドイツ・フライブルク音楽大学、フランス国立音響音楽研究所(IRCAM)で研鑽を積んだ権代敦彦(1965‐)。国内外で数多くの受賞歴を持つ彼は、この世代を代表する日本人作曲家の一人である。カトリック信者として教会オルガニストの職を務める彼は、作曲活動においても自身の信仰に基づく“儀式としての音楽空間”を探究。作品の多くに、キリスト教の理念に即した題名が付けられている。『Diesen Kuss der ganzen Welt』は、所属する音楽出版社ショット・ミュージックによる、“ぺトルーシュカ・プロジェクト”(国際的に活躍する73人の作曲家に「舞踊・ダンス」をテーマとするピアノ独奏曲を委嘱)の一環として作曲された。ドイツ語の原題は、「この口づけを世界のすべてに」と訳されよう。3/2拍子から3/64拍子に至る様々な3拍子のリズムの中で、冒頭より絶え間なく発される“E”の音。感謝と希望の「口づけ」に見立てられたこの“E”の音は、時に穏やかに、時に激しく、あらゆる音域に拡大し、放射される。その「口づけ」が、全世界へと届くことへの祈りが、この曲の根底にはある。