10曲からなるエチュード集で、Exercices-Etudes pour piano との副題を持つ。マドレーヌ・ジロドー=バッセ(Madeleine Giraudeau-Basset)に献呈され、「感謝をこめてなつかしみつつ」との添え書きがある。ジロドー=バッセはピアニスト、教育者で、教え子にはフランソワ=ルネ・デュシャーブルなどがいる。ダマーズのピアノ用のエチュードとしては、最も高度な《8つの練習曲》(1977年刊)の一段階下のレベルに位置づけられる。チェルニー40番練習曲(後半)から50番練習曲程度のグレードであるが、《8つの練習曲》に匹敵する難所も多い。本エチュードの特徴として、速度表示がないこと、大部分で強弱記号やアーティキュレーションが省かれていることが挙げられる。演奏者の習熟度や目的に応じた弾力的な活用が期待されているとみてよい。また、1曲毎の技術課題は《8つの練習曲》ほど厳格には突きつめられておらず、課題と楽想が自在に流動する点にも着目したい。平板なルーティンに終わらず、徹底して五指に多角的な刺激を与える結果となっている。コンサートピアニストとして一時代を築いた後も、生涯にわたってステージで闊達な演奏を聞かせたダマーズのピアニズムのエッセンスを集成したものと見ても興味深い。発展・展開の段階まで進んだ学習者の併用教本として有益であることはいうまでもない。
第1曲 イ短調、4分の2拍子。五指の分離、ポリメトリック、アルペッジョ、保持音、半音階。
第2曲 ト長調(調号なし)、4分の2拍子。和音奏、両手の交互奏、両手の交差。
第3曲 ハ長調、4分の2拍子。複付点音符、和音と単音の連接、重音奏、和音奏、アルペッジョ(両手逆行)。
第4曲 ハ長調、4分の2拍子。オクターヴ奏、分散オクターヴ、トリル、前打音。
第5曲 ヘ長調(調号なし)、4分の3拍子。アルペッジョ(両手逆行)、保持音、半音階。
第6曲 ト長調(調号なし)、4分の2拍子。保持音、アルペッジョ(重音含む)、和音奏、両手の交差。
第7曲 ハ短調(調号なし)、4分の2拍子。半音階、保持音、アルペッジョ、跳躍、重音奏、トリル。
第8曲 イ短調、4分の4拍子。二度重音の分散、五指の分離、保持音、半音階、アルペッジョ。
第9曲 ハ長調、8分の6拍子。オクターヴ奏、保持音、ヘミオラ、和音奏。
第10曲 ト長調(調号なし)、8分の6拍子。カンタービレ奏、保持音、トリル、重音奏、和音転回、連打音、半音階。