1959年の作品。この年の6月、R. ダグラス・ギブソンというプーランクの友人の一人が、イギリスの出版社であるチェスター社の創業100周年を祝うため、プーランクを含む数人の作曲家たちに、共作を持ちかけた。このとき、プーランクはスペインの作曲家、マヌエル・デ・ファリャの、《恋は魔術師》による作品を、ちょうど仕上げたばかりだった。そのためプーランクは、ギブソンに「ファリャの名に関連して、各作曲家が一曲ずつ作品を提供するのが最も良いアイデアだと思う」と提案し、自分のもとに完成したばかりのちょうど良い作品があることを知らせた。この経緯のため、作品はギブソンに献呈されている。
プーランクとファリャは、プーランクのピアノの師匠であるリカルド・ヴィニェスを通して知り合いになり、ファリャがスペイン内戦の影響でアルゼンチンに亡命した1939年まで、親交を結んでいた。「ピアノ、オーボエとバソンのためのトリオ」の被献呈者もファリャで、プーランクは、ステファヌ・オーデルが行った晩年のインタビュー『プーランクは語る 音楽家と詩人たち』でも、ファリャの人物像や音楽について語っている。
ホ短調のノヴェレッテの原曲である《恋は魔術師》は、25分ほどのオーケストラ曲である。そのため、プーランクは、8分の7拍子の緩徐部分でチェロによるソロに先立ってフルートが奏する、ゆったりと上下行を繰り返す旋律のみを借用した。この旋律が作品の主要主題であり、それ以外の部分は、主題をベースにした自由な発想で構成されている。