フィリップ :子守歌(原曲:サン=サーンス) Op.105
Philipp, Isidor:Berceuse Op.105
解説 : 西原 昌樹 (525文字)
フィリップにとってサン=サーンスは少年時代にパリで最初に指導を仰いだ恩師であった。サン=サーンスもまた、ピアニストとして大成したフィリップに厚い信頼を寄せ、作品を献呈するなど、二人の交友は生涯にわたって続いた。サン=サーンスのコンチェルト、室内楽曲、ピアノ曲はフィリップの最重要のレパートリー、ライフワークであった。意外なのは、精力的なアレンジャーでもあったフィリップが、敬愛するサン=サーンスの作品の編曲をわずかしか手がけなかった事実である。ヴィドールやテオドール・デュボワの大曲の編作があるのに比べても、物足りない感じが拭えない。サン=サーンスとフィリップは気心知れた師弟として関係が近すぎたゆえ、かえって出版関係者への遠慮などあったかとも推測される。≪子守歌≫ Op. 105 はサン=サーンス後期の4手連弾曲で、虚飾を排した簡素な書法、温かな旋律、フォーレを思わせる精妙な和声法を特色とする。アンダンテ・クワジ・アレグレット、4分の2拍子、ホ長調。フィリップによるピアノソロ版は、原曲のしみじみとした持ち味はそのままに、2手で無理なく弾けるように配慮されたもの。サン=サーンスのピアニズムに通達した高弟の手になる編作として貴重な一曲と言える。
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