ブーランジェ, リリ :前奏曲 変ニ長調
Boulanger, Lili :Prélude [en ré♭] Des-Dur
総説 : 平野 貴俊 (718文字)
作曲:1911年3月12日完成[パリ] 手稿譜:フランス国立図書館 ブーランジェが最初の作曲の師、ジョルジュ・コサードに学び始めてほぼ1年が経ったころに作曲された。当時ブーランジェは、ローマ大賞の獲得に向けて作曲の勉強を始めたばかりであり、この作品を出版しようという意図は、作曲家本人はもとより周囲の人びとにもなかっただろう。そのためか、強弱や速度といった演奏上の指示は一切書き込まれていない。タイトルはブーランジェ自身によるものではなく、のちにナディア・ブーランジェの弟子セシル・アルマニャック(1913~1997)によって手稿譜に書き入れられた。なお、本作品の原題Prélude en ré♭は、直訳すれば「前奏曲 変ニ調」であるが、この作品は長調で書かれており、日本では一般的に長短の別を表記するため、「前奏曲[変ニ長調]」とした。 このころパリ音楽院のヴィダルの作曲クラスに出席し始めたブーランジェは、1911年の間に《夜想曲》、3つの合唱曲、2つのカンタータ、管弦楽伴奏付きの歌曲などを作曲し、旺盛な創作意欲を示した。この作品にもすでに、高音域と低音域の対比、旋律線の強調といった、ブーランジェの作品を特徴づける要素が現れている。演奏の際には、全体を通して最も重要な音であるDesをよく聴く。また、とりわけ冒頭はテンポを落としすぎないように注意し、冒頭の左手の四分音符、二分音符、四分音符の音型、および21~22小節の左手のシンコペーションを意識して、適度な躍動感を与える。 ※本解説は『リリー・ブーランジェピアノ曲集』(校訂:平野貴俊、カワイ出版、2015)に掲載されたものをピティナ・ピアノ事典向けに改稿したものです。
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