越谷 達之助 :初恋
Koshitani, Tatsunosuke:HATSUKOI
解説 : 長井 進之介 (525文字)
音楽教育家、作曲家、伴奏ピアニストとして活躍した越谷達之助が、夭折した詩人・歌人 である石川啄木(1886~1912)の短歌15編に曲をつけて、《啄木によせて歌へる》として1938 年に発表した歌曲集の中の第1曲で、越谷が多くの共演を行ったソプラノ歌手、三浦環に捧げ られている。〈初恋〉の原詩は、 詩集『一握の砂』 に5つある歌集最初のもので、 「我を愛する歌」 の6首目に詠われる詩である。啄木が1908(明 治41)年から1910(明治43)年にかけて作った 551首がテーマ別に5章に分けて収録されているが、これらは現在の感慨を歌ったものから過去を回想する歌へと進んでいき、やがてふたたび現在のことを歌う作品へという順序で並べられている。これらの歌は人生を循環するように配置されており、作者の人間像や内面が浮かび上がってくる構成となっている。〈初恋〉の歌唱旋律は、おそらく捧げられた三浦が歌うこと を念頭に置いて書かれており、高音を駆使した、 可憐でのびやかな旋律が歌われていく。一方で、 ピアノパートは初恋に揺れる心の動きをあらわすように半音階が効果的に使用されており、さ らに拍子が頻繁に変えられながら進行していくことも特徴となっている。
初恋
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