チャイコフスキーには独奏楽器と管弦楽のための楽曲が、完成作だけで実は8つもある。絶大な人気を誇る《ピアノ協奏曲第1番》(1874~1875年)や《ヴァイオリン協奏曲》(1878年)の陰に隠れているが、一連の作品からはチャイコフスキーが協奏曲というジャンルでもその開拓に専心していた様子がうかがえる。
8曲のうち5曲は協奏曲というタイトルを冠していない。つまり《ゆううつなセレナード》(ヴァイオリン独奏、1875年)のように、曲風とジャンル名を自由に統合させたような表題がつけられている。チャイコフスキーが活躍した19世紀後半のロシアでは、交響詩に連なるジャンルの革新が盛んに試みられ、「交響的幻想曲」や「幻想序曲」などといった作品が数多く書かれた。チャイコフスキーの独奏楽器と管弦楽のための作品群も、これに付随する試みとして捉(とら)えることができる。単一楽章が多いなか、ピアノ独奏と管弦楽のための《協奏的幻想曲》(1884年)では全2楽章という変わった形をとる。
第1楽章〈ロンド風に〉は、大きくABAの3部形式をとる。明るい主題Aは《バレエ音楽「くるみ割り人形」》の〈トレパーク〉を彷彿(ほうふつ)させる。中間部Bでは独奏ソロの壮麗なカデンツァのみが展開する。
第2楽章〈コントラステス〉では、文字どおり2つの対照的な主題の駆け引きが愉(たの)しい。まず歌謡的で哀愁にみちた主題と、前楽章の主題Aに通じる快活な主題が順番に示されたあと、これら2つの主題がときに重なりつつ、身を翻(ひるがえ)すように軽妙に行き来する。
作曲年代:1884年4月~9月
初演:1885年3月6日(旧ロシア暦では2月22日)、セルゲイ・タネーエフ独奏、マックス・エルトマンスデルファー指揮、ロシア音楽協会モスクワ支部第10回交響楽演奏会
※本解説はNHK交響楽団よりご提供いただきました。