1887年に作曲、1892年に初演。1910年に出版された。ホアキン・マラッツに献呈。
序奏と7つの即興的なワルツからなる。いずれも、1~2分程度の短い小品。作風は、シューマンからの影響が感じられるものが多い。全曲通して演奏される。演奏時間は約14分。
この曲集はグラナドス自身による自動再生ピアノの録音が残されている。グラナドスは死の直前、1916年1月23日に行われたリサイタルでもこれを演奏した。
1.序奏/ Introduction :イ長調、4分の2拍子、ヴィヴァーチェ・モルト。活気に満ちた始まりの一曲。全体的にffで華やかに奏される。上向きの音型と、下向きの音型が自由に組み合わせられ、即興的に作曲されている。それを意識しておどけたような表現をみせても楽しいだろう。曲の最後はドミナントで終わり、次のワルツにつづけて演奏される。
2. I.メロディアスなワルツ/ Melodic Waltz :イ長調、4分の3拍子、プラシダメンテ。
A-B-Aの三部形式でできている。穏やかで、温かみのある旋律は、簡素ながらも美しい。Bの部分は、Aの部分が変奏された形。やや緊張感をもって。
3.II情熱的なワルツ/ Passionate Waltz :ヘ長調、4分の3拍子、テンポ・デ・ヴァルス・ノーブル(高貴なワルツのテンポで)。情熱的、というタイトルから想像されるような激しさはあまり感じられない、どちらかというと上品なワルツ。“情熱”的な表現をめざすのであれば、フレーズ全体の中で、どの音をめざして音楽が進むかを意識するとよいかもしれない。A-B-Aの形式。軽やかなBの部分では、遊び心をもって。
4.III ワルツ・レント/Slow Waltz :ニ短調、4分の3拍子、テンポ・デ・ヴァルス・レント。深い悲しみを感じさせるようなワルツ。ゆっくりと奏される。A―B-Aの形式で奏される。Bの部分は、Aの部分とは雰囲気を変えて、やや明るさをもった優雅なワルツ。軽やかに、しかしあまり元気になりすぎないように。
5.IV ユーモラスなワルツ/Humorous Waltz :変ロ長調、4分の3拍子、アレグロ・ウモリスティコ(ユーモラスな)。シューマン風。4小節を一つの大きなまとまりと考えると、2小節ごとの変化が大きなスウィングをうみだしている。A-B-A形式。中間部はト短調、ピウ・ヴィーヴォ。Aの無邪気さとは対照的で、大人びた歌いまわしを生かしながら表情豊かに。
6.V ワルツ・ブリランテ/Brilliant Waltz : 変ロ長調、4分の3拍子、アレグレット・エレガンテ。厚みのある伴奏の響きにのせて、優雅なワルツの旋律がたっぷりと歌われる。A-B-Aの形式。ぶ厚めのテクスチュアをもったAの部分と比べて、Bの部分はやさしく繊細に。
7.VI センチメンタルなワルツ/Sentimental Waltz : 嬰へ短調、4分の3拍子、クアジ・アド・リビトゥム(センチメンタル)ゆっくりとしたテンポで、悲しみに満ちた旋律がうたわれていく。A-Bの二部形式。Aの部分は、こぶし回しを用いながら、少し足取り重い調子で。Bの部分は、コン・モルタ・エスプレッシオーネ。希望をさがしもとめるように、やや推進力を増しながら音楽が進んでいく。しかし、最後はやはり沈んだような気分の中で静かに曲をとじる。
8. VII 蝶のワルツ/ Butterfly Waltz :イ長調、4分の3拍子、ヴィーヴォ。冒頭から蝶々が飛ぶような高音部が印象的。軽やかで繊細に、そして輝かしい音で。それをうけた低音部は対照的にたっぷりと奏する。蝶が羽根をやすめているような中間部も、愛らしい。魅力的な一曲。
9.VIII 素晴らしいワルツ/ Ideal Waltz:イ長調、8分の6拍子、プレスト。 リズミカルで活気に満ちた前半。その中でも動的なパッセ―ジと静かなパッセ―ジが対照を成して面白みをつくりだしている。後半では、第一曲目の〈メロディアスなワルツ〉が再び奏されるが、これによって、曲集全体に統一感が与えられている。穏やかな響きの中、優しく、静かに曲を閉じる。