変ロ長調、4/4拍子。緩徐楽章による開始は、プロコフィエフのピアノ・ソナタにとって全く新しい特徴である。この発想は、ベートーヴェンの《月光》を想起させる。しかし、ベートーヴェンの第一楽章が緩徐楽章に典型的な短い三部形式からなる一方で、プロコフィエフの第一楽章は、大規模なソナタ形式をなしている点で、先例と大きく相違している。ある者はこの楽章を指して、ピアノ・ソナタ第7番の初演者リヒテルに対し、「なんて古臭い音楽、まさかあなたがこれを弾きたいと思うのですか?」と批判したというが、当のリヒテルは別の機会に、「幾分理解しにくい作品だが、それは豊かさによるものだ」と洞察し、称えている。
第一主題は低音で奏でられるバスに乗せて、4小節という時間をかけてゆるやかに幅広いアーチを描く。四声体による対位法的に書かれており、アーチが内声の二声部とともに上昇・下降を描いており、プロコフィエフの対位法的な発想力を示している。逆方向のアーチが続いた後(なお、この旋律は映画音楽《スペードの女王》からの転用である)、変ホ長調に移り、第一主題と同様の上方向のアーチで旋律が奏でられる。(なお、以上のアーチのいずれかが「第二主題」として解釈され、本楽章は3つの主題を持つと解釈する解説がロシアでも本国でもしばしば見られるが、再現部でこれらの部分の調性がそのまま保持される点で、これらは動機でこそあれ、ソナタ形式の「主題」ではないと筆者は考える。)その後、再び第一主題がはっきりと確保され、動きを持った推移部を挟み、ト短調による、レチタティーヴォふうの第二主題が現れる。ここに、ロシアのフォークロア音楽である「泣き歌」の要素を見て取る著者もいる。
Allegro moderatoと標示され、トッカータ状の走句から始まる長大な展開部は、これまでに現れた動機が次々と変奏され、提示部に備わっていた穏やかなムードが、鋭く辛辣で、さらには幅広く熱情的な様相に変貌する。
再現部ではほとんど型通りに、二つの主題が変ロ長調で回帰し、展開部が再びたち現れるかのような辛辣なコーダを経て終結する。