第1楽章 2/4, 3/4 適度に速く Mäßig schnell(♩108)
ソナタ・アレグロ形式と見なされるが、展開部が簡潔であるため、むしろソナチネとして捉えることもできる。
提示部(第1~63小節)
第1~6小節まで、左手伴奏によってト音が執拗に強調されながらも、ト長調でもト短調とも取れない「ト調」の音楽が始まる。右手が奏でる第1主題の旋律は、五音音階(ト音、イ音、ハ音、ニ音、ヘ音)を示唆することによってどこか民族的な雰囲気を湛えながらも、アルカイックな響きを演出している。第26小節の2拍目に、pからfへの唐突な強弱の変化が起こり、短い挿入的な部分(挿入句a)が現れる。16分音符による即興的な音楽的運動とオクターヴとの対比が第1主題とは異なる音楽世界を暗示する。第36小節で音域的にも緊張感が頂点に達し、右手の16分音符の下行とともに急速に挿入句aが閉じられる。
第41小節から始まる第2主題は、「ヘ調」(どちらかというとヘ短調の傾向)に基づいている。第56小節からは同主題がオクターヴ音型で奏でられ、左手は新たな伴奏型に変化するが、そのまま直接展開部へと推移する。
展開部(第63~94小節)
第63小節1音目に両手がヘ音上のオクターヴをfで打音したのを合図に、第2主題が強制的に切断されて、強弱をpまで下げて展開部が始まる。展開部は、提示部に現れた挿入句aを素材としており、右手の16分音符の音型と左手のオクターヴ音型が音楽に勢いと駆動力を与える。特に第73小節2拍目からは、左手がオクターヴを8分音符で律動的に打ち鳴らし、右手は16分音符で同じ音型を反復することによって、音楽が急き立てられるように進行していく。第89小節2拍目から両手で16分音符の淀みない音型をかき鳴らし、強弱もffまで上昇するが、音楽はその勢いのまま再現部へと突入する。
再現部(第95~156小節)
第1主題が提示部の時とは全く表情を変えて回帰し、分厚いテクスチュアでオクターヴの響きを強調しながら再現部が開始する。展開部冒頭に、1音目をオクターヴとする3音上行形の伴奏が現れるが、再現部でもその伴奏型が引き継がれる。同伴奏型が執拗に反復されることで、音楽は工場の重機械の力強くも精密な動きを想起させるかのように進行する。
第117小節からは第2主題が今度はハ短調で回帰するが、第130小節からはト短調で再現される。第2主題が同じモティーフを変奏的に繰り返しながら衰微していき、第145小節から第1主題が提示部の時よりも1オクターヴ音域を下げて再現される。最後はト長調の主和音を提示して、静かに音楽を閉じる。