1952年、アメリカ人作曲家ロイ・ハリス発案のピッツバーグ国際現代音楽祭で、彼の妻でピアニストのジョハナ・ハリスにより初演された。この作品について、ヒナステラはこのように語っている:「このソナタは多調性と十二音で書かれている。民俗的な素材の代わりに、アルゼンチン的なものを感じさせる表現上の緊張感を持つリズムや旋律的モチーフを用いている。」抽象化されたアルゼンチンの音楽的要素と、当時の現代音楽的書法が鮮やかに組み合わされた、ヒナステラのピアノ曲を代表する作品の一つと言えよう。
第1楽章は、「スラーが書かれていない所はノン・レガートで、音量が大きいところではマルテラートで演奏」とヒナステラ自身が説明しているように、マランボ特有の勇猛で打楽器的な響きと、パンパの静けさのような素朴で抒情的な旋律との対比が際立っている。このような奏法を含め、平行3度の音型、4度の音程の重なり、矢継ぎ早に変わる拍子などは、ヒナステラ作品によく見られる特徴である。
第2楽章は、冒頭から十二音で構成されており、その幾何学的な音楽は、神秘的で超自然的な雰囲気すら感じさせる。十二音を含む八分音符が連続する静かな小節と、音量たっぷりに旋律を歌わせるシンコペーションが効いた箇所との対比が目立つ。時折現れるギターの奏法を模したようなアルペジオや、その開放弦と同じ音列は、ガウチョ吟遊詩人パジャドールの存在を思い起こさせる。パンパの暗がりで微かに見えるのは、お尋ね者のガウチョが持つ短剣の鈍い光か、はたまたパンパに暮らす先住民の間で信じられている超自然的な存在か。十二音の存在が、様々な想像を掻き立てる楽章である。
第3楽章は、前楽章の終結部において左手で奏でられた開放弦の音列に呼応するように、ギターの開放弦を意図的にずらした音列からゆったりと始まる。旋律に見られる四分音符1つと八分音符2つの組み合わせは、メランコリックな民謡トリステTristeを思わせるが、ヒナステラはそれを更に三連符、五連符へと拡大させていく。コーダにおいて積み重ねられる音は、まるで遠近法のように、パンパに広がる空間と、つま弾かれたギターの余韻を感じさせる。
第4楽章は、激しい打楽器的要素とオスティナートのような、ヒナステラ作品の最終楽章によく出てくるマランボの諸要素が見られる。楽譜に示された「3/8=6/16拍子」という拍子記号からも、マランボの基礎となるセスキアルテーラの特徴を読み取ることができる。また、右手における単音の旋律が、後に両手のオクターブのカノンで出てくるなど、同じ旋律型が定期的に現れる度に、創意工夫を凝らした表現に変わっていくのは、実にヒナステラらしい。