1960年代、アメリカのいわゆる「実験音楽」の動向を日本に知らしめる立役者のひとりとして活躍した一柳慧は、スティーブ・ライヒのピアノ曲《ピアノ・フェイズ》(1967)の初演にたちあい、また、テリー・ライリーの知遇を得るなど、ミニマル音楽といちはやく接触していた人物でもあった。
1974年の《ピアノ・メディア》、ならびに、1976年にピアニストの平尾はるなの委嘱によって作曲(翌年に改訂)された《タイム・シークエンス》は、一柳の作品のなかでもミニマル音楽からの影響をもっとも色濃く反映したものといえるだろう。一定の音型の執拗な反復と、つぎつぎとあらわれ順次変化していく音型の反復による、いわば2つの「層」が楽曲全体を織りなしていくが、それぞれの層においてくり返される音型の音数や速度が異なることから生じる時間軸上のズレが、不可思議でありながらどことなく心地よい疾走感を創出している。
演奏に際しては機械的な意味での技術力を要するといえ、場合によっては、コンピュータやシンセサイザで演奏したほうがむしろ効果的であるように思われるかもしれない。しかし作曲者の述べるところによると、この曲は「機械文明によって、私たちの感性や技術が浸食され、退化していく今日の状況において、人間の守るべきものは何か」を問おうとする作品であり、「人間の手によるピアノで演奏するところにこの曲の意味がある」とのことだ。