この行進曲は、クララ・シューマンの最後の作品である。1856年に《ロマンス》変ロ短調を書いて以来、ほぼ四半世紀ぶりに筆をもったこの作品もいわば「機会音楽」だ。ローベルト・シューマン・ハウスにある自筆譜には「ユーリウスとパウリーネ・ヒュープナーの金婚式のために作曲。1879年5月21日」と書かれている。画家のユーリウス・ヒュプナーとパウリーネ夫妻は、ドレスデン時代のシューマン夫妻のサークルの常連。ローベルトの死後も、クララは友情を保ち続けた。そんな彼らの金婚式を祝うために作曲された訳だが、「私は何を彼らに与えるべきか、さっぱりわかりませんでした。マーリエ(長女)が彼らにマーチを書き、それにローベルトの《Grossvater und Grossmutter》デュエットを使う、というアイディアを持ってくるまでは。」と日記に記されている。このローベルトの作品34-4からのメロディーが効果的に用いられ、歌詞の冒頭が当該箇所に書き込まれている。このプレゼントがどれだけヒュプナー夫妻を喜ばせたことか!
クララはこれを出版しようと、後に何度か手を加えている。しかし、納得のいく「最終稿」は完成しなかったようだ。なお原曲の4手用の他に、娘のエリーゼのためにクララ自身が用意したピアノ・ソロ版、おそらくクララが知らないうちにユーリウス・オット・グリムが1888年のクララのフランクフルト・アム・マインでの演奏家60周年記念のためにオーケストレーションした管弦楽用編曲もある。