作品概要
楽器編成:ピアノ独奏曲
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:17分30秒
著作権:パブリック・ドメイン
解説 (1)
執筆者 : 小林 由希絵
(1587 文字)
更新日:2018年3月12日
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執筆者 : 小林 由希絵 (1587 文字)
「甘美なワルツ」、「カノン」、「ノクターン」、「メヌエット」、「練習曲」、「間奏曲・セレナード」の6つの曲からなる小品曲集。はじめは5曲の曲集としてまとめられていたが、のちに第6曲の「間奏曲・セレナーデ」が加わり、全6曲の小品曲集となった。1903年ごろに作曲されたようだが、詳しい作曲年はわかっていない。 レスピーギというとまず思い浮かぶのは、ピアノというよりは色彩豊かなオーケストレーションであろう。 〈ローマの噴水〉、〈ローマの松〉、〈ローマの祭り〉といった「ローマ三部作」や、〈リュートのための古風な舞曲とアリア〉や〈ドリア旋法による弦楽四重奏曲〉などレスピーギの管弦楽作品や室内楽作品は、その卓越したオーケストレーションで世界的に高く評価され、今も多くの人から愛されている。 しかしながら、多くの優れた曲がありながらも、ピアノ作品にはこれまであまり光が当てられてこなかった。 レスピーギのピアノ曲は〈ピアノソナタ イ短調〉や〈組曲〉、〈プレリュード〉などのオリジナル作品の他、〈リュートのための古風な舞曲とアリア〉や〈グレゴリオ聖歌による3つのプレリュード〉など古楽に基づく編曲作品がある。これらの多くがボローニャ音楽院在学中から青年期にかけて作曲されたものであるが、これまで研究者たちがレスピーギのことを早熟な天才ではないと考えていたため、レスピーギの青年期の作品に焦点が当てられることは少なかった。 しかし没後25周年に際してレスピーギの妻エルサ夫人がレスピーギの自筆の楽譜の多くを寄贈したことから、初期作品の数々が研究者の目に留まることとなり、近年はレスピーギの青年期のピアノ作品が再評価されるようになった。 それでは、6つの小品をそれぞれ触れていこう。 ■第1曲 「甘美なワルツ」 A-B-A-C-Aのロンド形式で書かれている。名前の通り、甘美な調べの美しいサロン風のワルツとなっている。3連符の前奏がひときわ華やかで目を引くが、全体的にはレスピーギのピアノ作品の中でも比較的平易な書き方となっている。 ■第2曲 「カノン」 ポリフォニックな筆使いで書かれる本曲は、やはり「オペラの国」イタリア出身のレスピーギだけあって、主題のメロディも歌心にあふれた美しいものとなっている。なおこの曲は、1903年に作曲された〈組曲〉の第2曲にも使われている。 ■第3曲 「ノクターン」 A-B-Aの三部形式の曲。「ノクターン」とは「夜想曲」のことだが、この曲は調性や音の響きなどが、ドビュッシーの〈月の光〉を思わせるような作りとなっている。Aは静寂に包まれ澄み切った夜をあらわし、Bでは音域の広いアルペジオと和声で雄大さを表現し、「レスピーギ流イタリア近代印象派」といった風情だ。 ■第4曲 「メヌエット」 第1曲の〈甘美なワルツ〉と同じく3拍子の曲だが、こちらは伝統的な舞曲形式で書かれた新古典主義の作品。レスピーギはこの曲がお気に入りだったのか、のちにオーケストラにも編曲している。 ■第5曲 「練習曲」 時折イタリアらしい響きを感じさせながらも、フレンチスタイルで書かれており、全体的にはショパンのエチュードをベースにしている。精巧に作り込まれており、縦横無尽に動き跳躍する和音は、かなりのテクニックが必要だ。 ■第6曲 「間奏曲・セレナード」 元々レスピーギの最初のオペラ「レンツォ王」の間奏曲だったメロディをピアノ用に編曲したもの。レスピーギお得意の優しく滑らかなメロディが光っている。 この曲が作曲されたとされる1903年は、青年期の集大成ともいえる〈ピアノ協奏曲〉(1902年)や〈スラブ幻想曲〉(1904年)が作られたのと同時期にあたり、レスピーギの創作活動に脂がのり始めた時期。レスピーギのピアノにかける情熱がほとばしる珠玉の6曲である。