◇第1番〈ラメント――歌曲〉ホ短調 献呈 : Mes élèves Mesdemoiselles Henriette LEMARECHAL et Marie CRESSENT 「ラメント」は嘆きを哀歌。副題の「歌曲」はドイツ語の “(Lieder, 歌曲集)”と表記されているが、複数の曲が含まれているわけではない。メンデルスゾーンの「無言歌集」はドイツ語で“Lieder ohne Worte(詞のない歌曲集)” と表記されるので、マルモンテルは「無言歌集」というジャンルを意識して「ラメント」を書いている。
曲の構成は、3部分から成る。
AとBはそれぞれ固有の主題をもち、CodaではAとBの主題のモチーフの両方が統合される(37~40小節)。曲の哀調は、ホ短調のゆったりとした動き、半音による非和声音の多用、Bに見られる、ため息のような下行半音階によって表現されている。
◇第2番〈舟漕ぎの女〉ト短調 献呈:mes élèves Mesdemoiselles Sarah CUMMIG et Olga LEPRÊTRE 舟歌。水の都ヴェネツィアのゴンドラ漕ぎの歌に由来するジャンルで、ピアノ音楽ではメンデルスゾーンの無言歌集以来、多くの舟歌がト短調で書かれた。マルモンテル自身もこれ以前に《ヴェネツィア――舟歌》作品51をト短調で書いている。
曲は3部分とコーダから成る。
Aでは、第1番〈ラメント〉と同様、右手は複数の声部からなり、第7、15小節などでは下声部が旋律を担うので、しっかりと聴かせることが重要。BからA’に回帰する直前の推移部では、終着点を予期させない、修辞的効果を狙った半音階的な和声進行が見られる(第31~34)。霧がかった水面とゴンドラ漕ぎのあてどない夢想、「ささやくような(murmurando)」波音に消えていく舟の様子がイメージされる。
◇第3番〈小さなスケルツォ〉ヘ長調 献呈: Mes élèves Madame C. TEXIER et à Mademoiselle C. VINCENS スケルツォは、ソナタにおいてはメヌエットに代わる3拍子の楽章を指すが、19世紀には性格小品として2拍子系のスケルツォも多く書かれた。
本曲は2/4拍子の小スケルォで「小」とは言いながら、主要モチーフの展開も行われている。曲は次の表に示すように、主題部(A)が展開的な推移部と交替しながら交互に現れるロンド風の形式で書かれている。
全体はヘ長調を基調とするが、色付のセクションCは短三度上の変イ長調で提示されます。展開的な推移部では冒頭のモチーフが断片化され、右手・左手で展開される。こうした手法は、既にソナタを2作(作品8、86)書いていたマルモンテルにとっては手馴れたものだっただろう。
冒頭の主要主題は、歯切れのよいスタッカートとトリルが特徴。このモチーフは姿を変えながら何度も現れるが、終始舞踏的な感覚を保つため、リズムが甘くならないよう、また、32分音符にアクセントが付かないようにも心がけることが大切。