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リスト :「ローエングリン」より2つの小品(ワーグナー) S.446 R.279

Liszt, Franz:2 stücke "Lohengrin" (Wagner) S.446 R.279

作品概要

楽曲ID:6370
作曲年:1854年 
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:リダクション/アレンジメント
総演奏時間:15分50秒
著作権:パブリック・ドメイン
原曲・関連曲: ワーグナーオペラ『ローエングリン』

解説 (1)

総説 : 上山 典子 (2065文字)

更新日:2015年5月21日
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1848年以降ワイマールの宮廷楽長を務めていたリストは、同地でワーグナー作品の普及に努めていた。1849年2月16日の《タンホイザー》上演に続き、ゲーテ生誕101周年に沸く1850年8月28日には、スイス亡命中の作曲者不在のなか、《ローエングリン》の全曲初演を実現させた。それから数年後の1854年に取り組まれたこれらの編曲も、ワーグナー作品普及のための新たな取り組みとみなされるだろう。事実、リストは後に1850年代に取り組んだこれらの編曲を、「つましいピアノによる、ワーグナーの崇高な創造精神のためのささやかなプロパガンダ」(ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社(以下「B&H」)宛、1876年11月23日付)と振り返っている。

完成と同じ1849年にB&Hから出版された初版譜の全体タイトルには《2つの小品》と記されているが、楽譜は2巻に分かれていて、第1巻が〈祝典と婚礼の歌〉、第2巻の第1曲が〈エルザの夢〉、第2曲が〈ローエングリンの非難〉で、「3つ」個別の小編曲で構成されている。これら〈祝典と婚礼の歌〉、〈エルザの夢〉、そして〈ローエングリンの非難〉におけるリストの手法は極めて似ている。いずれの編曲も原曲の旋律線、和声を尊重するもので、リスト独自の極端にヴィルトゥオーソ的な扱いは控えられている。また、ワーグナーの切れ目のない場面を独立した編曲として成立させるための策として、取り出した場面の前/後にリスト独自の前奏と後奏(あるいはどちらか一方)を付け加えている。

第1巻〈祝典と婚礼の歌〉

編曲タイトルにある「祝典」は、華やかな金管ファンファーレに始まる原曲オペラ第3幕への前奏曲に基づく。リストは冒頭に10小節の前奏を付け加えたが、そのモティーフは第3幕への前奏曲でのモティーフに由来している。「祝典」に続いては、同幕第1場の「婚礼の歌」となり、第1連よりも第2連でピアニスティックな装飾が目立つ。その後は再び前奏曲(原曲の49小節まで)に戻る。同じくリストが独自に加えた5小節の後奏は、モティーフ的に前奏と対応している。(したがってこの編曲は、「リスト独自の前奏」→「前奏曲」→「婚礼の歌」→「前奏曲」→「リスト独自の後奏」という二重の枠構造で構成されている。)

第2巻〈エルザの夢〉と〈ローエングリンの非難〉

初版譜第2巻の第1曲〈エルザの夢〉は、60小節の小品である。リストはまずオペラ第1幕第2場の冒頭16小節を、この編曲の前奏に代用した。そして第17小節からは同じ2場、原曲でいうとおよそ80小節先へと一気に飛び、2オクターヴの半音階的に上昇するフルートの経過句に続いて「エルザの夢」の場面を開始した。後奏は4小節の簡素な和音で静かに締めくくる。

リストが選んだ「エルザの夢」部分は、ワーグナーの台本では夢の内実を語りだす箇所からで、それに先立つ神への祈りやまどろみの訪れは省略されている。しかもリストは必ずしもエルザの歌唱旋律をなぞるわけではなく、器楽旋律に集中することが多い。「エルザの夢」は規則正しい脚韻を踏んでおり、この歌詞を伴う旋律がとりわけ重要な意味を持っていると理解される。しかしリストはababcdcdとなっている脚韻のabだけを再現させると、それ以降この歌詞の旋律ではなく、オーケストラ・パートを主旋律として扱う。そしてしばしの後、エルザの旋律に戻ってくる。リストの編曲ではエルザが夢を語る場面で夢の途中が抜け落ちていることになるが、リストはエルザが語る夢の内容そのものではなく、夢見心地の美しさをピアノ一台で再現させようとしているのである。

第2巻の第2曲として収録された〈ローエングリンの非難〉は、原曲《ローエングリン》の第3幕第2場に基づく(「あなたは私と一緒に甘い香りを吸っているではないか」“Atmest du nicht mit mir die süßen Dürfte?” に始まる、ローエングリンがエルザを優しくなだめる部分)。第1曲の〈エルザの夢〉とほぼ同じ規模(63小節)の小品で、6小節の後奏が加えられている以外は前奏の追加もなく、また旋律線、和声ともに原曲を基盤とする。旋律線に手が加えられていない証拠に、ローエングリンの歌パートの旋律線にはドイツ語の歌詞が記入されている。

リストが手がけたワーグナーの編曲で、歌の旋律線に歌詞が添えられているのは、この〈ローエングリンの非難〉と《タンホイザー》のヴォルフラムのアリアに基づく〈おお、お前、優しい夕星よ〉の2曲しかない。このことは、(原曲に歌詞を伴わない《タンホイザー序曲》以外の)そのほかの編曲では旋律線が変更されたり拡大されたりしているため、歌詞を音符通りに記入することが出来ないことを意味している。(もちろん、ピアノ編曲に歌詞の記入は必要ではない、とリストが考えていた可能性も大いにある。)

自筆譜はワイマール古典主義財団の資料館、ゲーテ・ウント・シラー・アルヒーフに所蔵されている(整理番号:GSA 60 / U55)。

執筆者: 上山 典子

楽章等 (3)

祝典と結婚式の歌

総演奏時間:11分30秒 

解説0

楽譜0

編曲0

エルザの夢

総演奏時間:4分20秒 

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ローエングリンの非難

総演奏時間:3分30秒 

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