自身もピアノを得意とする間宮芳生は、《三つのプレリュード》と題した作品を3曲作曲している。まず、1972年に作曲したもの。そして2作目にあたるのが、ピアノ奏者舘野泉の委嘱によって1977年から78年にかけて書かれた本作で、3作目のものは1984年の作曲となる。なお、のちに本作と1984年のものとがまとめられて《ピアノのための6つの前奏曲》として出版されている(全音楽譜出版社)。
間宮の創作態度はバルトークのそれに近いといえ、民謡などの日本の民俗的な音楽を出発点とし、その要素をいかに同時代的な芸術作品へと昇華するかという問題に取り組んでいることが多い。そのような態度はこの作品にもはっきりとみてとれ、童歌や子守唄が作品のおもな素材としてあつかわれる。
第1曲「夕日のなかの子供達」は、仙台の童歌にもとづいた一種の変奏曲で、アレグレットによる軽快な部分と、メノ・モッソでゆるやかに和声付けされた部分とが交互にあらわれるかたちをとる。第2曲「鹿おどりの日」はタイトルが示すとおり、笛や太鼓をともなって踊られる鹿踊のさまをあらわすもので、いくぶんゆるやかな序奏にみちびかれるリズミカルでコミカルな楽曲といえる。第3曲は「ひかげ通りの子守唄」で、山梨の子守唄にもとづいており、深みのある幻想的な響きの間にテンポ感なく弾かれる旋律がはさまれつつ進行していく。
全曲をとおして、童歌などどちらかというと土着的で親しみやすい素材がもちいられているものの、ときにドビュッシーやジャズをもおもわせる色彩感ゆたかな響きをともなって仕上げられており、味わい深い独特の世界観をたたえる作品である。