作品概要
出版年 1928年
初出版社 B. Schott’s Söhne
楽器構成 ピアノソロ
総演奏時間 約5分半
タンスマンはピアノ独奏用に全4巻、計36曲よりなるマズルカ集を書いているほか、学習者向きの作品も含め「マズルカ」「マズール」「オベレク」などの題名で曲集に組み込まれた小品も多い。ピアノ音楽史上、タンスマンは、ショパン、スクリャービン、シマノフスキの系譜に連なるマズルカの大家と位置づけられよう。タンスマンの後には、近年再評価の機運著しい、同じくポーランド出身のロマン・マチエイェフスキ(Roman Maciejewski, 1910-1998)が続いている。
名曲ぞろいのタンスマンのマズルカの中で、本作はギター版を原曲とする点で異彩を放つ。タンスマンは1924年にギターの名手、アンドレス・セゴビア(Andrés Segovia, 1893-1987)に出会い、翌1925年に《マズルカ》をセゴビアに捧げた。タンスマンとセゴビアの60余年におよぶ交友の出発点であった。1925年5月6日に旧パリ音楽院講堂で初演して以降、セゴビアは《マズルカ》を生涯のレパートリーとし、本作は早くから「現代の古典」としての地位を確立した。非ラテン系でギタリストではない作曲家によるギター曲の最初の成功例として重要な意義を持つ作品である。
タンスマンはギター版と同年の1925年にパリでピアノ版を書いた。モデラート、4分の3拍子、ピアノ版はギター版から5度上げた移調がなされている。リピートを省くと演奏時間は約2分短縮する。ギター版のモダンでデリケートな味わいはそのままに、和声の充填、共鳴弦・倍音・ハーモニクスの効果を狙ったオブリガートの追加、両手の交差など、作曲者ならではの自由な着想も発揮された意欲的な編曲である。旋法的な動きを巧みに織りまぜたメロディが東方の神秘と憂愁を表出し、洗練された和声法がフランスの香りを添える。この国籍不詳の洒脱さこそがタンスマンの真骨頂である。ギター版と同様に親しまれてよい逸品といえる。