上下2巻、全8曲よりなるピアノ独奏曲集。原題は「王太子のための古典ラテン文集」を意味するラテン語(Delphini は王太子を意味する仏語ドーファン Dauphin に相当)。太陽王ルイ14世の第一王子の教育のため執筆、編纂されたラテン語古典文献の集成を指す。ミゴの本作はそこから題名を借用したもの。栄華と洗練をきわめた王朝文化への憧憬の結実であることはもとより、自身が往古の宮廷に出仕し曲を書き下ろしていたならば、との架空の設定も念頭にあったのではないだろうか。それが同時に、現代の一般のピアノ学習者の利用にも資する曲集となるようにと意図したのではないか。第1巻(Cahier I)は標題付きの5つの小品。幼いマルグリット・マルシャル(La petite Marguerite Marchal)への献呈。第1曲 序文(Préface : Bien allant, 4/4)、第2曲 視奏(Les déchiffrages : Simplement, 4/4)、第3曲 進歩(Les progrès : Allant, 3/4)、第4曲 儀式(Les cérémonies : 9/8)、第5曲 結語(Conclusion : Décidé, 9/8)。第2巻(Cahier II)は「練習曲集」(Les études)と題され個々の曲に標題はない。献呈先の記載もなし。第1曲 Modéré, 2/4、第2曲 Allant, 3/4、第3曲 Ondoyant et sans lenteur, 5/4。両巻ともに、ミゴのピアノ曲としては平易に書かれている部類だが、それでもドビュッシーのベルガマスク組曲くらいは弾けるレベルでないと譜読みもおぼつかないだろう。ギイ・サクルも本作について、荘重、抽象的、難解に過ぎ、子供向きではないとし、殊に第2巻には荒涼たる砂漠を思わせる厳しさがあるが、王子が成長した暁には、そこにこそ引き寄せられることもあろうなどと評する(Sacre, Guy. 1998. La musique de piano T.02. Paris: Robert Laffont)。初演は1932年1月23日、パリ、サルショパンにおける国民音楽協会(Société Nationale de Musique)演奏会にて、エレン・フォスター(Elen Foster)による。フォスターは《黄道十二宮》第1曲〈宝瓶宮/みずがめ座〉の被献呈者でもある。