作品概要
出版年 1950年
初出版社 Editions Mondia
楽器構成 ピアノソロ
総演奏時間 約2分半
ローラン・プティの委嘱により書かれたバレエ音楽《ダイヤモンドを噛む女》(Op. 18)は、ダマーズ初期の代表作の一つに数えられる。振付はプティとアルフレッド・アダン、主演ジジ・ジャンメール、舞台美術ジョルジュ・ヴァケヴィッチ、衣装デザインにイヴ・サンローランやクリスチャン・ディオールらも参画した盤石の布陣で、1950年9月25日、作曲者自身を指揮者に迎えパリのマリニー劇場にてバレエ・ド・パリにより初演、好評を博した。盗賊の女首領を主人公とし、ロマンスと活劇とを織り交ぜた痛快な筋書きにふさわしい軽妙洒脱な音楽は、ダマーズが若い機智をいかんなく発揮したものである。当時のプティはオペラ座付きの公職を辞し在野での活動を開始した時期であった。興行上の失敗が許されない状況で、新作の作曲者として、並み居る強豪を差し置き22歳のダマーズに白羽の矢を立てたのも、新進のダマーズにどれほど破竹の勢いがあったかを示す証左といえよう。劇中でジャンメールの唄うシャンソン(レイモン・クノー作詞)も当たりをとった。
バレエ音楽からダマーズ自身により管弦楽組曲、器楽曲、シャンソンが編作され、モンディア社から刊行された。Jack Claus に献呈された《トッカータ》は、技巧的なショーピースである。当時ピアニストとして一時代を築いたダマーズ自身の演奏を前提としたものであろう。4分の2拍子、ト長調、アレグロ。全体にダマーズの定石的な書法が用いられ一気呵成に進行するが、急速な跳躍と衝突が頻出して錯綜をきわめるうえ、息の長いメロディを朗々と歌わねばならない。軽業師のような余裕をもって楽しげにエスプリを表出することはいっそう困難である。ラヴェルの〈トッカータ〉(《クープランの墓》第6曲)やピエール・サンカンの《トッカータ》などにも匹敵する難曲といえよう。プティとジャンメールの舞台姿を描いた出版譜の表紙イラスト(Ch. Kiffer 画)には、古き佳きベルエポックの馥郁たる残り香が漂う。爾来、幾年月を経て、プティ(2011年)、ダマーズ(2013年)に続き、2020年にはジャンメールが物故した。時代の移ろいを否応なく痛感させられる。