1989年に出版された2台のピアノのための作品である。1984年のコマンジュ音楽祭(Le Festival du Comminges)の委嘱で書いたクラヴサンとオルガンのための同名の合奏曲を原作とする。原作は音楽祭の創設者ピエール・ラクロワ(Pierre Lacroix, 1930-2020)に献呈され、フランソワーズ・プティ(Françoise Petit)のクラヴサン、フランソワ=アンリ・ウバール(François-Henri Houbart)のオルガン(ベルトラン大聖堂の歴史的オルガンを使用)により初演された。2台ピアノ版は、クラヴサンパートを第1ピアノに、オルガンパートを第2ピアノに移し替えたものである。こうした成立の経緯から、第1ピアノではクラヴサンに由来する細かな動き、第2ピアノではオルガンに由来する重厚な和弦の比重が大きくなっている。これを多様に重ね合わせることで、本作に固有の陰影、遠近感、浮遊感のある音響を創出する。こうした役割の固定は唐突に破られることもあり、第2ピアノが繊細な楽句を担ったり、第1ピアノがスカルラッティのアッチャカチュラを思わせる大胆な不協和音を奏したりと、変化を持たせてもいる。ダマーズの作品全体からみれば中期から後期にさしかかる円熟期の所産で、おおむね既成の常套的なフレーズの順列・組合せで出来上がっているが、それだけに安定した端正な書法が一貫しているともいえる。保守性と現代性が一般の聴き手にもわかりやすい形で両立し、規模、内容ともに充実した作品である。
第1曲 トッカータ Toccata アレグロ・モデラート(4分音符=約96)、4分の5拍子。主調はハ短調(調号なし)。原作の楽想は8割方維持されているが、2台ピアノ版では残りの2割程度でパッセージの改廃や順番の入れ替えがなされている。息の長い2分音符と4分音符のメロディをふちどるように16分音符がアラベスク様の細かな綾をなして絡むことで、独特のにじみと奥行きのある音響効果をあげる。小さな起伏の反復からうなりを増して高揚し、圧倒的な迫力のある大伽藍が形づくられたのち、次第に沈静化してハ長調の澄みきったラストへと収束してゆく。
第2曲 パッサカリア Passacaille アンダンテ(4分音符=約60)、4分の3拍子。主調はト短調(調号なし)。原作からの改変はない。冒頭で第2ピアノが落ち着いた足どりのテーマを単音で呈示し、9つの変奏が続く。テーマ自体がクロマティックな進行を内包し無調的であるため、活発に展開する変奏も音響の上ではかなり厳しい印象を与えるものとなっている。楽想の停滞はなく、中間部にかけて音価が細分化され、目まぐるしい動きもみせる。
第3曲 終曲 Final アレグロ・ヴィーヴォ(8分音符=184)、8分の7拍子、ハ長調。原作はほとんど維持されているが、2台ピアノ版にはわずかな改変がある。テンポ指定は4分音符にすると 92 であるから、アレグロにしては抑えたテンポ設定といえるが、変拍子の頻繁な交替、多彩なリズム、歯切れのよい和音奏により爽快な躍動感を伴ってダイナミックに展開する。終盤にはトッカータに出てきたメロディが高らかに回帰して組曲らしい統一が図られ、ハ長調の主和音による晴れやかな大団円となる。