デロ・ジョイオは1942年に結婚したグレイス夫人との間に二男一女をもうけた。本作は一家団らんのなごやかな情景を描いた5つの小品よりなる連弾曲で、妻と子供たちに献呈された。献辞(To G. and V. and J. and N. jr.)は家族のファーストネームのイニシャルを記載したものである。ここでは、子供たちのにぎやかさよりも、平穏な日常、親子のくつろいだ語らい、満ち足りた安らぎに焦点があてられているようだ。デロ・ジョイオの連弾曲としては最も平易なものであるが、両パートの対位法的な絡み合いや現代的で凝った和声法など、譜面から想像しにくい難しさがあり、初心者同士で弾くには無理がある。ブルグミュラーくらいまで進んでからとりくむと良いように思う。洗練された雰囲気は大人の演奏、鑑賞に堪えるもので、コンサートのレパートリーにもなり得る。本作に続いてデロ・ジョイオは、1966年に《5つのイメージ》を、1968年に《クリスマス・ミュージック》を、1974年に《ステージ・パロディーズ》を書いたが、いずれも難度の上がった、チェルニー30番から40番程度の本格的な連弾曲である。現代アメリカの連弾の名曲はバーバーの《思い出》(Souvenirs)だけではない。
本作のその後のことも書いておこう。デロ・ジョイオは1971年にグレイス夫人と協議離婚し、1974年にバーバラ・ボルトンと再婚した。成長した子供たちの進路も興味深い。長男ジャスティン・デロ・ジョイオは父と同じく作曲家に、次男ノーマン・ジュニアは乗馬騎手に、長女ヴィクトリアは格闘技家になった。もともとイタリア系の移民で代々音楽家を輩出したデロ・ジョイオ家が、身体能力にも秀でた家系であったことがわかる。デロ・ジョイオ自身も若き日にはプロ野球選手を目指したこともあったという。1999年、86歳のデロ・ジョイオは、アルバニー・レコード(Albany Records)のインタビューに答えて、《ファミリー・アルバム》創作の背景や子供たちとの思い出を語った。話は孫たちとの交流を楽しんでいる近況にも及んで尽きることがない。その語り口はユーモアと限りない優しさにあふれている。本作は文字通り、家族の幸せなひとときを記録したかけがえのないアルバムとなったのである。
第1曲 Family Meeting 家族のつどい Brightly 4/4 ハ長調
第2曲 Play Time おゆうぎの時間 Very lightly 3/8 ト長調
第3曲 Story Time おはなしの時間 Gently and songlike 3/4 ハ長調
第4曲 Prayer Time おいのりの時間 Like an organ 2/2 ハ長調
第5曲 Bed Time おやすみの時間 Slow and quiet 4/4 ハ長調