ダマーズには、ハープとピアノのどちらで演奏してもよいと明記された独奏曲が複数あり
、ハープパートがピアノと兼用になっている室内楽曲もある。そのいっぽう、ダマーズ自
身はハープとピアノの書法を峻別すべきであるとし、ハープパートをピアノで代用するこ
とに賛同しなかった曲もあったというから、原則として、ピアノ用が謳われない純然たる
ハープ曲をピアノで弾くことには慎重を期す必要がある。ただ、作曲者の意図を熟慮し、
仔細に吟味を重ねたうえであれば、ハープ曲をピアノで弾く試みが許容される場合もある
のではないか。例えば、ハーピスティックな書法が比較的控えめなこの曲などはどうだろ
う。この《序奏とトッカータ》は1968年に書かれたハープ独奏曲で、ハーピストのベルナ
ール・ガレ[ギャレ](Bernard Galais)に献呈されたもの。愁いを帯びた序奏(Lent[
遅く]、2分の3拍子、ハ短調)に、さわやかで優美なトッカータ(アレグロ・モデラート
、4分の2拍子、ハ長調)が続く。ガレの3枚組LP盤「ハープの3世紀」(Trois Siècles de
Harpe [Véga])では、3枚目(20世紀篇)B面にトゥルニエ、カプレと共に収録され、アル
バム全体の掉尾を飾る。この曲は派手な見せ場こそないが、極度に洗練された語り口にな
んともいえぬ風雅な味があり、私見では、どこかフランス宮廷の優艶きわまる世界へと回
帰していく趣きがあるように思う。LP1枚目(18世紀篇)はクルムフォルツ(Jean-
Baptiste Krumpholz)とカルドン(Jean-Baptiste Cardon)、いずれも王妃マリー・アント
ワネットの時代の宮廷の伶人たちの音楽で幕を開ける。彼らの末裔たるダマーズは、二百
年の時をあざやかにさかのぼり、香り高き古典の世界に私たちをいざなう。鍾愛すべき名
品たるゆえんであろう。