プーランクの晩年の代表的なピアノ作品の一つ。1951年2月から9月にかけて作曲、とされているが、作曲の作業自体は、8月15日に終了したと考えられている。
1950年代、プーランクはそれ以前に増して、自らの調性的な音楽語法と、当時の「現代音楽」との折り合いを、強く意識するようになっていた。そのことは、1957年初演のオペラ《カルメル会修道女の対話》の作曲中に、友人への手紙で書いた「私のオペラの登場人物は、かわいそうに、調性でしか歌えない」という発言にも読みとれる。《主題と変奏》は、当時のその音楽的潮流に対する答えとして、作曲されたと言われる。初演は1952年12月15日にサル・ガヴォーにて、ジャック・フェヴリエのピアノで行われた。
作品は、プーランクの母親の友人で、初見演奏に類稀な才能を発揮したピアニスト、ジュヌヴィエーヴ・シエンキーヴィッツ(1878~1971)に献呈されている。なお、プーランクは出版譜を、親交のあったピアニスト、ヴラディミール・ホロヴィッツに送っており、その楽譜に、「あなたのようにこの《主題》を弾ける人なんていないでしょう」と書き添えている。
「静かに、決して急がずに」と書かれた主題は、極めて調性的な和音の連続で構成される。中には、第10変奏の「謎めくように、十分に遅く」のように、協和音の構成音にぶつかるように音を追加された、不協和な響きが連続するものもあるが、基本的には、第1変奏から第11変奏まで、プーランクの調的志向が明確に現れている作品である。