1952年の作品。1932年に作曲された、バリトン(もしくはメゾ・ソプラノ)と室内オーケストラのための世俗カンタータ《仮面舞踏会》の6曲目、〈フィナーレ〉をもとにしている。
プーランクは、《仮面舞踏会》から複数の作品を作っている。2曲目の〈アンテルメード〉はピアノ・ソロの曲として、また〈フィナーレ〉も《ピアノのためのカプリッチョ ハ長調》として、それぞれ1932年に個別に出版している。さらに4曲目の〈バガテル〉は、オーケストラ伴奏をピアノに編曲し直し、《ヴァイオリンとピアノのためのバガテル第1番》として、同じく1932年に出版された。
これらの曲とは異なり、FP 155は、《仮面舞踏会》の作曲から20年後に手がけられた。成立年代が原曲よりもかなり後であるため、同じく〈フィナーレ〉をもとにしたピアノ・ソロのためのカプリッチョとは違い、シュミットによるプーランクの全作品カタログでは、FP 155のカプリッチョは独立した別の作品と考えられ、原曲とは別の作品目録番号を与えられている。
作品はアメリカの作曲家、サミュエル・バーバーに献呈されており、ニューヨーク市立図書館のバーバー・コレクションには、プーランクの自筆譜のコピーが所蔵されている。正式な初演の日時は不明だが、作曲家の死の約1年後、1964年1月25日に、アメリカでプーランクの2台ピアノ作品の演奏をよく行っていたアーサー・ゴールドとロバート・フィッツダールの2人によって、ニューヨーク初演が行われたことは判明している。
編曲にあたって、プーランクは、楽曲構成などを変化させず、原曲をそのまま2台ピアノ向けに書き直した。そのため、原曲の多彩な表情を作り出している各楽器のパートだけでなく、後半に登場する声のパートもピアノ譜へ書き換えられている。自作の「リサイクル」を作曲手法の一つとしていたプーランクが、旋律の一部などのみならず、作品そのものまで自己引用していたことを示す一例といえよう。