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バッハ :ゴルトベルク変奏曲(アリアと30の変奏曲) ト長調 BWV 988

Bach, Johann Sebastian:Goldberg-Variationen Aria mit verschiedenen Veränderungen G-Dur BWV 988

作品概要

楽曲ID:2270
出版年:1741年 
初出版社:Schmid
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:変奏曲
総演奏時間:54分55秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

執筆者 : 朝山 奈津子 (1903文字)

更新日:2007年7月1日
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『クラヴィーア練習曲集 第4部』においてバッハは、アリアと30の変奏を刊行した。これは16世紀以来の伝統を持つ大規模変奏曲であり、作曲技法の規範として、作曲家の能力を顕示する手段として、それまで多くの音楽家が作品を世に問うたジャンルだった。1740年代には練習曲としての用途が重視され、簡素なものが多く書かれるようになっていたが、バッハの《ゴルトベルク変奏曲》は逆に、当時の演奏技術の水準を凌駕していたと言われる。

《ゴルトベルク変奏曲》という名称は、ドレスデンの廷臣カイザーリンク伯爵(バッハにザクセン選帝侯宮廷楽長の詔書を手渡した人物)のお抱えだったクラヴィア奏者ゴルトベルクに由来する。バッハの最初の伝記作者 J. N. フォルケルは、不眠症に悩む伯爵がバッハに作曲を依頼した、と伝えているが、出版に際してなんらの献辞も添えられていないし、ゴルトベルクは当時まだ14歳であったことから、この記述は若干うたがわしい。自筆譜は現存せず、作曲の経緯を完全に解明することはできないにせよ、実際にはバッハのほかの曲集と同様、折にふれ書き溜めたものに推敲を重ね、最終的に30の変奏として配列、構成したと考えられる。

アリアはサラバンド風で、豊かな装飾を持つ優美な旋律が印象的だが、実際に変奏主題となるのは、バスの進行である。32小節――《ゴルトベルク》における楽章数、すなわち冒頭のアリア、30の変奏曲、終結に繰り返されるアリア、全32曲を象徴している――には、各小節ひとつの和声があてがわれ、安定した和声リズムで変奏の土台を形成する。

30の変奏は、3曲ずつの小さなまとまりを成す。様々な書法や形式で書かれた性格変奏の1曲目、簡潔な2声による2曲目、そしてトリオ・ソナタのテクスチュアで書かれたカノンの3曲目である。カノンは同度から9度まで順番に並んでいる。また、第16変奏はフランス風序曲の付点リズムで、後半の始まりを告げる。そして第30変奏は、カノンではなくクォドリベットである。これは複数の俗謡を同時に唱和する様子を描写した対位法的な音楽形式で、ユーモラスな性格とは裏腹に、内声部には緻密な技巧が要求される。バッハはここで実際に当時の民謡の断片を2つ用いた。そのひとつは「別れ」をテーマとし、祝祭の舞踏会の最後の一曲として使われた歌であることが判っている。第30変奏でバッハはこの魅力的な変奏曲の宴に別れを告げている。

もっとも、3曲ごとのまとまりや、第16変奏を30曲の折り返し点とすること、カノンの音程が順次増えていくこと、クォドリベットの原曲の意味などは、しっていれば知的満足を覚えるとしても、音楽を耳で聞いてそれと理解することは難しい。そもそもバッハがこの32の楽章を常に通して演奏することを想定していたかどうかは疑わしく、《平均律クラヴィーア曲集》や《フーガの技法》の配列原理と同様、あくまで抽象的、象徴的なものに留まっているとみなすこともできる。演奏と鑑賞においてはむしろ、各曲の対比こそが重要であろう。第15変奏の溜息のように重い主題で短調のカノンを聞かせた後に、第16変奏が華々しくフランス風序曲を打ち鳴らせば、その効果は絶大である。第30変奏のクォドリベットが厚みのある、かつエネルギッシュな対位法で複数の主題を鮮やかに展開したのち、まるで何事もなかったかのように最初のアリアが戻ってくる。現在の多くの演奏会で32曲が――その長さにも拘らず――通奏されるのは、まさに、各曲の対比のうまさ、バッハが配列においてみせる演出力のゆえである。

《ゴルトベルク変奏曲》は「二段鍵盤のチェンバロ」を想定しており、各曲に使うべき鍵盤が指定されている。現代のピアノで演奏する場合でも、鍵盤の切り替えの効果は考慮すべきである。さらに、この作品は装飾音に関してきわめて煩雑な問題がある。初版に記された記号は、一般のものよりもいささか長く、何を意味するかよく判らない。バッハは出版後も改訂を行っているが、書き方のあいまいな装飾記号について厳密な指定を残してはくれなかった。現在でも、各種史料のほか、C. P. E. バッハの『クラヴィーア奏法試論』なども参照しながら、なお活発な議論が続いている。

ところで、遅くとも1741年には出版された『クラヴィーア練習曲集 第4部』の1冊をバッハは手元に置き、「先のアリアの8つの基礎音に基づく種々のカノン」と題した新たなカノンを14曲ほど書き込んだ。残念ながらチェンバロでは完全に演奏できず、オルガン、あるいはアンサンブルで演奏される。

※全体構成については、こちらをご覧下さい。

執筆者: 朝山 奈津子

楽章等 (32)

アリア

総演奏時間:3分00秒 

解説0

編曲0

第1変奏

総演奏時間:1分00秒 

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第2変奏

総演奏時間:1分20秒 

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第3変奏

総演奏時間:1分40秒 

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第4変奏

総演奏時間:0分50秒 

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第5変奏

総演奏時間:0分50秒 

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第6変奏

総演奏時間:1分10秒 

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第7変奏

総演奏時間:1分40秒 

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第8変奏

総演奏時間:1分00秒 

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第9変奏

総演奏時間:1分20秒 

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第10変奏

総演奏時間:1分10秒 

解説0

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第11変奏

総演奏時間:1分20秒 

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第12変奏

総演奏時間:2分20秒 

解説0

編曲0

第13変奏

総演奏時間:3分15秒 

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第14変奏

総演奏時間:1分10秒 

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第15変奏

総演奏時間:2分55秒 

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第16変奏

総演奏時間:1分50秒 

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第17変奏

総演奏時間:1分00秒 

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第18変奏

総演奏時間:0分50秒 

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第19変奏

総演奏時間:1分20秒 

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第20変奏

総演奏時間:1分10秒 

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第21変奏

総演奏時間:1分40秒 

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第22変奏

総演奏時間:1分30秒 

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第23変奏

総演奏時間:1分10秒 

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第24変奏

総演奏時間:2分25秒 

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第25変奏

総演奏時間:6分10秒 

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第26変奏

総演奏時間:1分10秒 

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第27変奏

総演奏時間:1分20秒 

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第28変奏

総演奏時間:1分50秒 

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第29変奏

総演奏時間:1分00秒 

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第30変奏

総演奏時間:1分10秒 

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アリア

総演奏時間:3分20秒 

解説0

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近藤 伸子
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