1947年に完成し、翌年髙田 留奈子夫人により初演された。第2次世界大戦中に戦災に遇い、家を失った作曲者が信州の山間の村で作曲し、戦後、東京で完成させた。全5曲から成り、それぞれに豊かな自然を思わせるタイトルがついているが、これは作曲者の思い出によるものであり、演奏に際してはこれらのタイトルにとらわれすぎないようにとのコメントが添えられている。
第1曲目の<蒼き沼にて>は4分の4拍子で冒頭に「グラーヴェ(よどみて)」と記されている。曲全体を通して完全5度が特徴的である。また、左右のオクターヴや和音によるユニゾンも目立つ。冒頭は、半音階に富んだ音の進行となっている。
第2曲目の<風に踊る陽の光>は8分の6拍子で冒頭に「アッレグレット(清澄に)」と記され、前曲との対比を成すことが示唆されている。主要主題は1オクターヴ上に向かう跳躍で開始することが印象的である。左手の伴奏には、前曲で特徴的であった5度音程が随所に隠されている。また、第28小節におかれた11小節間のポコ・メーノ・モッソは、前曲の雰囲気を思わせる。その直前には、8分音符が同じ音価で指示される4分の2拍子が2小節間挿入されている。ポコ・メーノ・モッソの後に再現する主要主題は、左手に置かれ、右手は伴奏にまわる。終結の3小節もメーノ・モッソと指示されている。
第3曲目の<山鳩>は4分の4拍子で冒頭に「レント(ものうく)」と記されている。タイトルにとらわれすぎないようにとの作曲者のコメントがあったが、5~7連音符の使用により、鳥の鳴き声を模したような曲となっている。第13小節に、1小節のみ4分の2拍子が挿入される。ディナーミクはppp-pを中心としている。
第4曲目の<藍色の谿間>は4分の2拍子で冒頭に「ヴィーヴォ(流れる様に)」と記されている。ffで開始し、仮に、前曲が自然の一部にスポット・ライトをあてていたのだとしたら、視界が一度に広がるような印象をもたらす。但し、2小節目でディミヌエンドし、第3小節から提示される主要主題は、pと指示されている。曲全体を通して、冒頭2小節の音形を伴奏とし、その上に「ベン・マルカータ・ラ・メロディア」と指示された旋律が乗せられている。用いられるディナーミクの幅はppp-fffと幅広い。
第5曲目の<暮れてゆく山々>は8分の12拍子で冒頭に「レント・トランクイッロ(ほのぐらく)」と記されている。この曲は、これまでの4曲の要素が少しずつ顔をのぞかせることが特徴的である。