1953年に母を失い、さらに友人の死をうけて、モンポウはこれまで以上に内面的な音楽を作曲するようになった。《ひそやかな音楽》も、その時期に作曲された作品である。スペイン語の“Musica Callada”は、《沈黙の音楽》と訳されることもある。1巻に付された文章の中で、詩人サン・ファン・デ・ラ・クルスの詩の“La Musica Callada, la Soledad Sonora(鳴り響く孤独、沈黙する音楽)”から引用された言葉であることが記されている。
この曲集は、1959年~1967年にわたって作曲された。第1巻~第4巻にわたり、それぞれ9曲、7曲、5曲、7曲ずつ、いずれも2ページ以内の小曲がおさめられている。実際に、演奏会向けにかかれた曲集ではなく、独り言のように書かれているものが多い。第4巻のみ、ラローチャに献呈された。
I.旋律は、天使の歌声のように清らかに、静かに歌われる。拍子、小節線は記されていないが、息の長さはおよそ4分音符7拍、8拍分のまとまりの中でかかれている。
II.4分の3拍子、レント。不協和音が立体的に重ねられている。不吉な響きの中ににほんの一瞬垣間見える協和音の柔らかい音色が印象的である。
III.4分の3拍子。穏やかで優しい右手の旋律に対して、左手の音が不協和にぶつけられている。緊張と解決が波のように繰り返される。
IV.4分の3拍子。非常に単純なリズムが繰り返され、和声が微妙に変化していく。その中に悲しみや苦しみがつまっているようだ。
V.4分の3拍子。終始一貫して8分音符がうちならされる。それらの執拗な音は、旋律の表情にあわせて音量や奏する間隔を微妙に変化させながら音楽を支える。
VI.4分の4拍子、モルト・カンタービレ。不協和に音を連ねていく不安定な旋律は、安らぎを求めて彷徨う心の声のようにきこえてくる。
VII.4分の4拍子、レント。冒頭、低音の深いところで左手がへ音を中心にした動きをみせ、つづいて祈るような旋律が歌われていく。拍子の変化が多いので、それぞれの拍子感を感じて奏する。
VIII.4分の3拍子、左手の和音の上で右手の旋律が左右に揺れるように歌われていく。40秒程度の非常に短い一曲。音の動きがなくなるところでは、のばしている音の響きをしっかりときくように注意する。
IX.4分の4拍子、レント。右手の音の合間をぬうようにして左手が音を落としていく。重なる音の響きを注意深くききながら奏する。ポコ・ピウ・モッソでは、雰囲気を一変させて、高音での鋭く輝くような音が印象的である。