ニムラとは、戦間期に欧米を席巻した日本人舞踏家、新村英一を指す。新村は20世紀舞踊界における立志伝中の伝説的人物で、現在も権威ある「ニムラ舞踊賞」にその名を残す。1920年代にアメリカで名声を確立した新村は1934年に大規模な欧州ツアーを敢行する。最初期から折にふれ日本文化に取材した作品を手がけてきたミゴは、新村の来仏をどれほど楽しみに待ちこがれたことだろう。パリ公演中の新村の舞踊に感銘を受けたミゴは直ちに「ニムラ」と題したピアノ曲を書いた。「偉大な踊り手ニムラに」(Au maître-danseur Nimura)との献辞がある。出版譜の表紙に日本風の家紋をあしらっているのも目をひく。初演は1938年6月15日、パリ、サルショパンにてイスカル・アリボ(Iskar Aribo)による。冒頭の標語に「野蛮に、重々しく」(Rude, pesant)。テンポに揺らぎはあるものの、文字通り荒削りで叩きつけるような楽想が一貫する。6/8拍子、ニ調(調号なし)を一応の基調としつつ調性は一定しない。ミゴには珍しくホモフォニックな書法が一貫する。間違いなく新村の舞踊に触発されているが、単に身体運動を描写したものというより、和洋の霊感をあわせ持つ類まれな肢体から無尽蔵に放たれた波動の克明な記録ででもあろう。