close
ホーム > フンメル > ギターとピアノのためのポプリ

フンメル :ギターとピアノのためのポプリ Op.53

Hummel, Johann Nepomuk:Potpourri für Gitarre und Klavier Op.53

作品概要

楽曲ID:92859
楽器編成:その他 
ジャンル:種々の作品
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

解説 : 高久 弦太 (1294文字)

更新日:2025年5月12日
[開く]

《ポプリ Op.53》は、ウィーン古典派末期からロマン派初期への移行期に活躍した作曲家ヨハン・ネポムク・フンメル(Johann Nepomuk Hummel, 1778–1837)が1820年代前半に作曲したと推定されるギターとピアノのための室内楽作品である。題名が示す通り、「ポプリ(Potpourri)」形式を採り、複数の有名旋律を自由に繋ぎ合わせて構成されたメドレー的作品である。

この作品は、19世紀初頭のウィーン社交界におけるサロン文化の隆盛を反映しており、技巧性と耳馴染みの良さを兼ね備えた演奏会用作品として位置づけられる。ギターとピアノという一見異質な組み合わせにおいても、両者の音色的・表現的特性が巧みに融合されており、フンメルならではの洗練された音楽語法が発揮されている。


■ 歴史的背景

フンメルはモーツァルトの直弟子として知られ、ベートーヴェン、シューベルトと同時代に生き、ウィーンとヴァイマルを拠点に国際的な演奏家・作曲家として活躍した。1815年頃には、マウロ・ジュリアーニ(Mauro Giuliani)らと共にシェーンブルン宮殿の植物園にて公開演奏会を催すなど、ギターを含む室内楽作品の普及にも貢献している。

本作《ポプリ Op.53》は、そうした文脈の中で、当時流行していたフランスやイタリアのオペラ旋律を素材に、上流階級のサロンや家庭演奏の場での需要に応える形で作曲されたものである。


■ 形式と構成

《ポプリ Op.53》は、特定の調性に縛られず、各旋律の性格に応じて自由に転調やテンポ変化が行われる。そのため全体としての統一感は旋律素材の認知性と変奏的展開により保たれている。モーツァルト:《ドン・ジョヴァンニ》からの引用をはじめ、当時流行したオペラアリアや民謡などがコラージュされたいわば「メドレー様式」である。


■ 技術的・演奏的観点

ピアノ・パートは、フンメルらしい軽妙な音階、アルペジオ、トリル、装飾音が頻出し、演奏者には高いヴィルトゥオジティが要求される。一方、ギターは主に和声的補完や旋律の受け渡しに用いられるが、随所に装飾的なアルペジオや分散和音が挿入され、独自の音色的存在感を保っている。

ギター演奏者にとっては、ピアノとのバランス確保が最大の課題であり、繊細な音量調整と明確な音の立ち上がりが求められる。使用楽器は当時の19世紀ギター(ロマンティック・ギター)を想定しており、現代のクラシックギターで演奏する場合には、ダイナミクスと発音の工夫が必要である。


■ 音楽的意義

《ポプリ Op.53》は、フンメルのサロン音楽作法を代表する作品であると同時に、ギターとピアノという異なる音響世界の融合を試みた貴重な例である。単なる流行曲の寄せ集めにとどまらず、旋律の配置と展開にはフンメルならではの構成意識と様式美が感じられる。

また、当時の大衆的オペラ旋律と芸術音楽の融合という観点からも、19世紀初頭の音楽文化の一端を理解する上で重要な資料といえる。今日では演奏機会こそ限られるものの、当時の演奏習慣や編曲技法を考察する上で、音楽史的にも意義深い作品である。

執筆者: 高久 弦太

楽譜

楽譜一覧 (0)

現在楽譜は登録されておりません。