close
ホーム > ラコンブ

ラコンブ 1818 - 1884 Lacombe, Louis

title
  • 解説:上田 泰史  (2075文字)

  • 更新日:2010年1月1日
  • 今からちょうど200年ほど前の1810年代のヨーロッパでは、「ロマン主義」とよばれる芸術の新時代を担う新しいピアノ音楽の名手たちが次々に誕生していた。1810年生まれのショパンシューマンに続き、11年にリスト、12年にタールベルク、13年にアルカンヘラーといった才人たちが相次いで現れた。とくに産業が目覚ましい発展を遂げたパリでは、ロンドンとならんでピアノ産業・演奏会産業が急速に発達し、ヨーロッパ中から大勢のピアニスト兼作曲家たちが集まり、卓越した演奏技巧、想像力豊かな発想を通してその覇を競い合った。パリの楽壇ではショパンやリストのような「異国人(エトランジェ)」がその強烈な個性によったスターダムにのし上がったが、実は1810年世代のフランス人音楽家の中には、彼らと並び称されたピアニスト兼作曲家たちが少なからず存在したことが近年の研究によって明らかにされてきた。まだその作品はおろか名前さえ一般には殆ど知られていないが、13年生まれのアルカン、ドビュッシーにピアノを教えたパリ音楽院教授で16年生まれのマルモンテル、17年生まれのプリューダン、18年生まれのラヴィーナはフランスの輝かしい1810年世代を代表する「フランス派(エコール・フランセーズ)」の旗手である。そしてルイ・ラコンブ Louis Lacombe (1818.11.26-1884.9.30) もまた、この一団にその名を留める博識で個性豊かな作曲家であると同時に驚嘆すべき演奏技巧を誇るピアニストであった。

    1818年、フランスの南にある地方都市ブルジュに生まれたルイ・ラコンブは、母の手ほどきを受けてピアノを始めると、ほどなく神童の片鱗を見せ始め、弱冠6歳で地元の演奏会でステージに立った。ラコンブの両親は息子をピアノ音楽の中心地パリで勉強させることを決め、11歳でパリ音楽院のピアノ科に入学した。ピアノ教授ヅィメルマンに才能を見込まれたラコンブが31年に修了試験で一等賞を獲得したのはまだ10代前半のことである。ある回想によれば、修了試験の演奏を聴いていた7つ年上のフランツ・リストは、座席から「僕の子ども時代の演奏を思い出すよ!」と叫んだと伝えられている。

    一家は名声を求め1834年から39年にかけてヨーロッパ・ツアーを敢行し、ドイツ各地の都市を巡り、ハンガリーまで足を伸ばした。だが、経済状況は常に厳しく、一家の放浪の旅は続いた。旅先で彼は常に向上心を持ち続け、ウィーンでは名高いピアノ教師で作曲家のチェルニーCarl Czerny (1791-1857) 、音楽理論家で作曲家のゼヒター Simon Sechter (1788-1867) 、ザイフリート Ignaz Ritter von Seyfried (1776-1841) に師事してピアノにとどまらずオーケストラ、合唱、リートの書法を掘り下げた。また、ライプツィヒではシューマンと知己を得たが、著名な音楽批評家としても知られるシューマンは、ラコンブの演奏を聴いて「黄金の如く輝かしい」と述べ、激励を惜しまなかった。

    作曲家としてのラコンブは、ピアノ音楽に加え、交響曲、種々のオペラ、オラトリオ、合唱曲、独唱用歌曲、室内楽など幅広い分野で創造力を発揮している。初期から中期のピアノ作品は、《二つのノクターン》作品8、《自然の調和》作品22といった魅力的な性格小品のほかに、練習曲としては若き日の超絶的な《大ギャロップ》作品13、《大練習曲集》作品19、当時有名な教材として普及していた《オクターヴ練習曲》作品40、《コラール——演奏会用練習曲》作品45 などがある。これらの極めて険しい演奏技巧は卓越したラコンブの「金の如く輝かしい」響きを髣髴とさせるが、一方で《サロン用ソナタ》作品33のような作品では繊細でニュアンスに富んだもう一つの顔をのぞかせている。

    彼の劇的交響曲《マンフレッド》(1847年初演)、《アルヴァあるいはハンガリーの人々》(1850年初演)、合唱と独唱付き交響曲《サッフォー》(1878年初演)はベルリオーズやフェリシアン・ダヴィッドらフランスの代表的な交響曲作曲家(サンフォニスト)たちによって探究された標題付き交響曲の流れを組む大作である。彼が1869年に再婚したC デュクレールフェア、ラフォンテーヌ、ラシーヌ、ユゴー、ミュッセ、ラマルティーヌといった詩人の作品に曲をつけているほか、自らも韻文を手がけるほどの才人だった。類稀な文化人としてのラコンブの姿は、生前に手稿のまま残し、後に遺作として出版された『哲学と音楽』(1896)に認めることができる。

    室内楽の分野では《三重奏曲》第1番 作品12、弦楽器と管楽器のための《大五重奏曲》作品26、晩年の古城の情景を描いた弦楽四重奏《城》作品92などが主な成果である。これらは実験的な交響曲とは異なりいずれもきわめて堅実に構成されており、ウィーンで開眼したバッハ、ベートーヴェンをはじめとするドイツの伝統的な作曲マナーに従っている。

    執筆者: 上田 泰史 
    <続きを表示する>

    作品(5)

    ピアノ独奏曲 (3)

    曲集・小品集 (2)

    解説0

    楽譜0

    編曲0

    ノクターン (1)

    4つの夜想曲 Op.8

    総演奏時間:15分30秒 

    解説0

    楽譜0

    編曲0

    行進曲 (1)

    トルコ行進曲 Op.54

    調:ハ長調  総演奏時間:4分30秒 

    解説0

    楽譜0

    編曲0

    室内楽 (1)

    種々の作品 (1)

    楽譜0

    編曲0