ミゴが壮年期に書いた2台ピアノの名作。死後に出版された。ミゴ研究の第一人者マルク・オネゲルの説明によると、1957年2月、ジェラール・ミュライユ(作曲家トリスタン・ミュライユの父)の詩集「覆い火」(Feu couvert)の朗読の付随音楽として構想され、当初のタイトルは「前奏曲、間奏曲と後奏曲」(Prélude, Interludes et Postlude)であったという。ヴァレリー・スデールとピエール・オークレール(Valérie Soudères et Pierre Auclert)への献呈。1962年10月15日、ストラスブールのコメディ座にて、当代随一と称えられたコンビ、マリ=ホセ・ビヤールとジュリアン・アゼ(Marie-José Billard et Julien Azaïs)が初演。複数の線的な横の流れがもつれ、からみ合う。調性は否定も肯定もされないまま、時間の内と外とを隔てる境い目の歪み、きしみを思わせる異形の不協和音が偶発的に生成される。その独創的な音響は他に類例がない。第2、4、8曲は一つの臨時記号もなく、ミゴが偏愛した白鍵のみを用いる手法による。端然とした譜面には、人の意を迎えるような発想標語も、仰々しい技巧も、奇をてらった前衛的手法も、何もありはしない。しかし、あらゆる虚飾、一切の主観を排し去ったところに、かえって隠しようもなく作曲者の知性、美学、狂気がにじみ出る。ミゴは作曲と並行して哲学、天文学、画作、詩作をよくした。時空を超越した世界はいつでもミゴの近くにあって、ミゴはそこに自在に出入りをし、創作の基盤の一つとしていたのである。したがってミゴの音楽は抽象的であると同時に具象的でもあり、またそのどちらとも定めがたいものでもある。いずれにせよ、楽譜を手がかりに、私たちは瞬時にミゴの飛翔した異界に接することができる。これ以上の贅沢があるだろうか。世に2台ピアノの名曲多しといえども、これほど特異な幽妙の境地を見せる曲を、私は他に知らない。
第1曲 Assez lent 4分の4拍子
第2曲 Allant 4分の4拍子
第3曲 Modéré 4分の3拍子
第4曲 Comme un choral 4分の5拍子
第5曲 (四分音符=88)4分の6拍子
第6曲 (四分音符=66)4分の5拍子
第7曲 (四分音符=60)4分の4拍子
第8曲 Choral 4分の4拍子